この物語は、2025年に書いていますが、2027年~2035年の近未来の釧路を想像したフィクションです。(2025.11.18記)
2030年、イワシで釧路が大逆転する未来を見た。
2030年の夏、私は、観光案内所で「すみません、“イワシ横丁”はどこですか?」と尋ねる観光客の声を耳にしました。
イワシ横丁?そう、いまや釧路では“イワシが旅の目的になる”という、数年前には誰も想像しなかった景色が広がっています。
きっかけは、とてもシンプル。
「釧路のイワシはめちゃくちゃ美味しい」
この事実が、地元の若い漁師と飲食店の手によって、ようやく世間に届きはじめたのです。
道東の主要都市である「釧路市」ですが、近年は製造業の出荷額が減少するなど主要産業の落ち込みが激しく、若者を中心とした転出による人口減少が課題となっていました。
その傾向は加速するばかり。釧路市民の誰もが“あの頃”の活況を思い出し、“大逆転”する展開を夢見ていたのです。
■ 江戸時代の超高級寿司ネタ「イワシ」が釧路で復活
イワシは、かつて江戸で“マグロより人気”だった高級寿司ネタ。
脂の甘み、濃厚な旨味、香りの豊かさ。ただし致命的な弱点がありました。鮮度がすさまじく落ちやすいのです。
そのため、江戸前の職人たちは競うようにイワシを扱い、技術を高め、価値を上げていきました。
そして時は流れ、令和を迎えました。
冷蔵技術と船上処理の進化によって、「江戸のイワシ」を超えるクオリティが、釧路で再現できるようになっていました。
しかも、温暖化で回遊ルートが北上した結果、近年の釧路沖のイワシは脂の乗りが傑出しているのです。
その事実を「宝だ」と言い出した若い漁師がいました。
地元の小さな店がそこに乗り、SNSでじわじわと話題になり、釧路の飲み屋団体が動き出したのです。
■ 「鉄北センター」が“鉄北いわしセンター”に進化した理由
2027年、老舗飲み屋街・鉄北センターの一角に、小さなネオン看板が灯りました。
「鉄北いわしセンター」と書かれたアーチ型のネオンです。これまで掲げられていた「鉄北センター」の看板は錆びて危険になっていたことから、撤去か修繕かの判断を迫られていた矢先でした。
最初は半分冗談だったらしいのですが、看板の設置から5年、2030年頃には、その屋根の下に入っていくと、どの店も“自慢のイワシ料理”を掲げるようになっていったのです。
・炙りイワシの三貫盛
・イワシのなめろう寿司
・イワシの白子ポン酢
・イワシの漬け握り
・釧路イワシロール(サンマロールの進化版)
昭和レトロな雰囲気のなかで、一軒、また一軒とハシゴしながら、店主が誇らしげに言います。
「釧路のイワシは、日本でいちばん美味いよ」
この“誇りの言葉”が観光客の心を揺さぶっていったのでした。
中高年の常連客だけでなく、昭和レトロを求める若者、食べ歩き動画を撮りたい大学生、海外からの旅行者までもが訪れるようになり、次第に毎晩のようににぎわうようになりました。
■ 首都圏には絶対に出さない。釧路でしか食べられない価値。
釧路のイワシがここまで評価されている理由は、実は“流通しないこと”にもあります。
「本当に美味しいものは、地元で食べてもらいたい。」
漁師と飲食店の一致した考えです。
もちろん高値がつくなら大都市に送ったほうが儲かります。しかし、イワシは鮮度が命。
釧路の港から半日以内に店の厨房へ運び、丁寧に処理して出すのが何より美味しいのです。
・・・というより、長期的に価値を失わないための戦略というのが本当のところ。
つまりこれは、釧路でしか成立しないグルメなのです。
結果的に、釧路の飲食店全体の価値が上がり、観光客が「イワシを食べるために来る街」へと変貌していきました。
■ 小さな飲み屋のひとつひとつが“釧路の文化”になる
今の釧路の飲み屋街は、チェーン店よりも地元の小さな店が元気。
なぜなら、どの店に入っても「その店にしかないイワシ料理」があるからです。
大将が自分の手で捌いて、工夫して、誇りを込めて出してくれます。
その一皿を食べて客は驚き、SNSで広がり、街に人が戻ります。
まち全体で大規模な開発をしなくても、釧路は“食のブランド”で復活できる──
そんな希望の象徴になったのが、イワシだったのです。
■ 2035年。釧路は“イワシの聖地”として全国区に。
釧路のイワシがブレイクして5年後、2035年のガイドブックには、こう書かれています。
「釧路を訪れたら、まずはイワシを食べること」
夜の「鉄北いわしセンター」には、ネオンのアーチをバックに写真を撮る若者が行列をつくり、店の中では観光客が「え、これイワシなの?」と驚き、地元の常連はいつも通り静かに一杯やっています。
この風景こそ、釧路が長年求めていた“賑わい”の姿です。
そして私は思う。
釧路は、まだまだやれる。
イワシはその始まりにすぎない。
2035年、釧路のイワシは、街に再び光を灯す存在となっていました。
(この物語はフィクションです。2025年11月の妄想より)
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